「つーまーらーなーいー。」




Rainy Day




そう呟いている間にも雨足はどんどん強くなっていく。

「そんなに、ですか?」
「・・・・、菊。」
「雨の日なんて、ひきこもるための絶好の言い訳になるじゃないですか。」
「別にあたしオタクじゃないから、ひきこもりたいとか思わないし。」
「晴れの日にやる撮影会もいいですが、雨の日のシチュエーションで撮るのもいいものですよ。」
「だーかーらー!あたしはオタクじゃないし、菊のコレクションに加わるつもりもない。」
「そうなんですか?・・・・残念です。
 せっかくに着てもらおうと○ーラー○ーンの衣装、買いましたのに。」
「だから、あたしはオタクじゃないって何回言わせんのよ!
 つか、いい加減そういうネタから離れてよ!これ、夢小説よね!?」
「あ、一人が嫌でしたら、二人でします?合わせしましょうか!」
「えーと、菊の愛刀、どこやったっけか?」
「冗談、冗談ですから。」

雨は相も変わらず、地面を濡らし続ける。

「あー、つまんなーい。ポチくんとお散歩するつもりだったのに。」
「くぅん・・・・。」
「まぁまぁ、そう言わずとも。・・・・ほら。」
「何?」

菊がすっと指を指し示す。
けれどそこにあったのは、何の変哲もない、木。

「・・・・・・何か、いる?」
「いいえ、何も。そうではなくて、ですね。よく、葉の部分を見て下さい。」
「葉っぱ?」

ぽつ、ぽつ、

上から垂れてきた雫が下へと落ちて、また葉に当たる。
雨の音がする度、たくさんの葉に、雫が落ちていく。
・・・・それはまるで、生き物が動いているようで。

「え、わ、すごー・・・・」

考えたら当たり前のこと。
それでも、改めて見るととても不思議に思えて仕方なかった。

「なかなか、面白いでしょう?
 ・・・・あとは、そうですねぇ。ちょっと待っていて下さい。」
「?」

カタカタ、と音を立てながら帰ってきた菊を見る。
手に持っていたのは、お盆に入ったたくさんのガラスのコップ。

「菊?飲み物なら、ここに・・・・。それに二人しかいないのに、こんな数・・・・。」
「ふふ、違いますよ。」
「?じゃあ、何するの?」
「まぁ、見ていて下さい。」

ひとつのコップを手に取り、その中へと雨水を溜めていく菊。
またひとつ、またひとつ。
全てに溜め終えると、再度あたしの方を見て、ふふ、と笑う。

「別に、雨水でなくてもいいんですけれど、ね。」
「?」

まったくもって意図が分かっていないあたしに、
菊は、まるで小さな子供に教えるかのように優しく囁く。

「指を少しだけ濡らしてから、こうするんです。」

スィー・・・・・ フィー・・・・・・

「え、わ、すごーい!!」
も、やりますか?」
「やりたい、やりたい!!」

フィー・・・・・ スィー・・・・・

「えー、本当にすごいね。
 なんで同じコップなのに違う音がでるのー?菊。」
「入っている水の量が違うでしょう?」
「あ、本当だ。」

本当に、楽しい。
こんな『つまらない』日も、菊がいてくれればいつの間にか『楽しい』日に変わる。
それが、無性に、嬉しくて。

「きゃわん!」
「あは、ポチくんもやる?」
「きゃわん、きゃわん!」
「ふふ、できますかね?」

・・・・・フィー・・・・ スィー・・・・・

「さっきより音小さいけど、ちゃんと鳴ってる!すごーい、ポチくん!」
「きゃわん!」

ずっと、ずっと。
こんな風に、日々が続けばいいのに。

「もいっかいやってみよっか、ポチくん!」
「きゃわんっ」
「・・・・・・。」
「?何、き」

く、と呼ぼうとした名前は、その人自身に吸い込まれて、音にはならなかった。

「・・・・・!!」
「すみません。ずっとが私の方を向いてくれないので・・・・。
 嫉妬してしまいました。」
「しっ・・・・と、って・・・・・。」
「ほら、これは夢小説ですから。
 それっぽい雰囲気も、必要でしょう?」
「ば、馬鹿。」

恥ずかしすぎて、菊から目をそらす。
両手で顔に集まる熱を冷まそうとするが、あおげばあおぐ程顔は更に熱くなる。
横目でチラリと菊を見ると涼しい顔をして庭を見ていた。
・・・・・なんか、悔しい。

「いいですね。」
「・・・・、何が。」
「こんな日常が、ずっと続けばいいのに。」
「・・・・・!」

泣きそうに、なった。
菊が同じことを思ってくれた、から。
菊が同じことを考えていてくれた、から。

「・・・・・・ありがとう。
「?、何か言いました?」
「ううん、なんでもなーい!」

あたしを、ここに、菊の隣に、置いてくれて。
こんなにもの、幸せを、くれて。

「そうですか?」
「うん。・・・・・ね、お夕飯、今日は二人で作ろーか。」
「手伝ってくれるんですか?」
「ダメ?」
「いいえ。今日は、美味しいものができそうですね。」
「今日も!だよ。」

今日も、明日も、ずっと先まで。
こうして、二人で。

「きゃわん!」
「ふふ、ごめん。ポチくんも、ずっと一緒にいるんだもんね。」
「・・・・そうですよ。ずっと、このトリオでいましょうね。」
「トリオって。」
「ふふ。・・・・・さぁ、仕度を始めましょうか。」
「うん!」



                                                  Fin.