グリーンスリーブス
私はイギリスのことが好きだった。とても、とても。
光を浴びて輝く金色の髪はとてもきれいだし白い肌に浮かぶ緑の色をした目もいいと思う。
彼は自分の髪はぼさぼさだから嫌だと言っていたけれど。
そして彼はとても不器用でそして優しい。困ったこともあるけれど、彼はとてもつもなく優しい人なのだ。
イギリスは本当に、少しだけ、不器用なだけ。私は全部わかってる。
そうだから私はいつまでも気付かなかった。
なぜならイギリスはいつも優しかったから、そして私が馬鹿だったから。
どうして気付かなかったんだろう。
私がいつでも来れるようにと自分の家の鍵を渡してくれたのに、
ここ最近は家に足を運んでも、彼はそこにいないのだ。
誰もいないとても静かな空間で私はそっと息をする。吸って吐いて吸って、吐いて。
イギリスの自慢の庭には、相変わらず丁寧に手入れのされた薔薇が美しく咲き誇っている。
大きなガラスの窓越しにそれを眺めて、ソファーの上でそっと体育座りをしてみる。
声は出さずに、今を見つめ直す。なぜ最近彼はいないのか。
電話をしても出てくれない。仕事が忙しいわけではないと周りは口をそろえて言う。
じゃあなぜ。どうして。私はあなたに会えなくて、とても寂しいよ。
ふと、テーブルの上に置かれた封筒に目がいく。真っ白な封筒は封を切られていて、中身が少しでていた。
それは一枚の写真で、私は興味本位でそれを見てしまった。
勝手に見てごめんなさい、と長いこと会うことのできない人に心の中で謝罪を入れてからすっとそれを取り出す。
時間というのはとても残酷で、そこに写るのは真実でしかなかった。
なぜこんなに彼と会うことも連絡を取ることも叶わなかったのか。
その答えは全てこの写真が物語っていた。
あぁ、私は彼の隣に写る可愛らしい身長の低い黒髪のおとなしそうな女の子を、知っている。
日本のところの子だ。控え目に笑うその姿はとても可愛かった。
私は鍵を写真と共にテーブルの上に置き、そして静かなこの空間から出ていった。
いつの間にか私は古い時間の中に取り残されてしまったのだ。恋は盲目なんてよくいったものだ。
もうこの部屋に入ることは決してない。庭の綺麗な薔薇を見ることもない。
それらは全て二度と叶うことはないのだ。終わりというのはとても静かで早いのだなと考えながら玄関を抜ける。
そこにいたのは、つい先ほどまであんなに会いたいと願っていたイギリスだった。
驚いた表情をしてる彼に私はそっと言葉を紡ぐ。これが最後だよ、イギリス。
「さようなら」
彼の言葉が聞こえない。聞く気もない。私はそのまま彼の脇を通り抜けその場を離れた。
もう何も見たくない何も知りたくない。虚無の愛もいらない。
静かに心を痛めつけるだけの愛なんてなくなってしまえばいいのに。
意外なことに、さよならを口にするのはとても簡単なことだった。
本当は全て分かっていた、彼がもうずっと前から私のことを見ていなかったってこと。
20100527(いつもと違う女の子のお話、気付いたら名前変換なかった)