家で暇だから、とお菓子を焼いていると携帯が鳴った。
画面を見ればと表示されている。すぐに電話にでると、
彼女は弱弱しい声で私の家に来てもいいかと尋ねてきた。
私はかまわないと返事をした。彼女を断る理由などない。親友の頼みだものね。
それに、きっとこれが最後になってしまうだろうし。
あたりが暗くなり始めたころ、はやってきた。
彼は伝えたんだろうか。いつもだったら、彼女を悲しませたと聞いたらすぐにでもフライパンで殴るのに、
今回はばかりはそれができないのがくやしくて仕方ない。
もしやったとしても、彼はそれを受け止めるだけだろう。なんて、憎い人。
「大丈夫?疲れたでしょう、遠いものね」
「急におしかけてごめんね、エリザ」
「いいのよそんなこと。それで、話ってなあに?」
彼女の口から話された内容は、私が想像していたものとは違っていた。
こんなことを言うのはおかしいけれど、ごく普通の別れ話だった。
どいうことかと思ったけれど、きっとフランシスのことだ。真実を告げるぐらいなら、なんて考えたのだろう。
普段は女性の扱いがうまいだのなんだの言われているけれど、本命には弱いのだこの男は。
でも。彼が黙っているつもりならば私もそうするしかない。
は私に少しずつ話をしながら涙をたくさん流していた。
私の大切なを、こんなに泣かせるなんて本当に許せない。許せないのに、私も何もしてあげることができない。
ただ彼女の話をきいて、つらかったのね、と言ってあげるぐらいしかできない。
もっと力になってあげたいのに私にはそれができない。
大分時間が経ってから、は少し落ち着きを取り戻したのか、また話を始めた。
あたりはもうとっくに真っ暗だった。残りの時間も、あと少し。
「あのねエリザ、私日本へ帰ろうと思う」
「……」
「もう、ここにいてもつらいだけだし、用もないかなって。ただエリザに会えないのは、さみしいけれど……」
「が決めたことなら、私は止めないわ」
「エリザ、もし日本に来たら必ず会いに来てね」
「……ありがとう、」
私は、彼女の言葉に「はい」とは答えられなかった。ごめんなさい、。
私、いいえ私たち、もうあなたに会えないのよ。
自分が国であることを恨んだことは何度もあるけれど、こんなにも悔しく思ったのは今日は初めてかもしれないわね。
そして彼も私と同じように何もできない自分と、世界を恨んでいるのかしら。
けれど、全てを伝えなかったのはあなたよ、フランシス。