前日の夜に決めておいた服を着て、メイクもして、ばっちりだ。
少しでもフランシスに釣り合うようにと準備をして出かける。
フランシスとのデートなんて本当に久しぶり。
嬉しくて、歩きながらつい顔が緩んでしまう。
一生懸命服選んだのだけど、フランシスは褒めてくれるだろうか。かわいいと言ってくれるだろうか。
私の家から待ち合わせ場所へはそう遠い場所ではなく、すぐに着いた。
待ち合わせ場所の公園の時計台近くのベンチに座って彼を待つ。
ちょうど約束した時間だけど、彼はいつも少し遅刻するからまだ来ないだろう。
今日はどこへ連れて行ってくれるのかな。どんな話をしてくれるのかな。



いつもなら、もう来てもおかしくないはずなのにフランシスはまったく姿を現さなかった。
寝坊とかならメールがあるはず。しかし先ほどから手に握る携帯はちっとも鳴らない。
何かあったのかと心配になって彼に電話をしようと思い、携帯を開いた。
ふと、顔をあげれば遠くに彼の姿があった。なんだ、ちょっと遅れただけだったんだ。
そう思って彼の元へ行こうと立ち上がる。けれど私は足を進めることができなかった。
ねぇフランシス、その隣にいる女の人は誰?



震える手で、私はフランシスに電話をかけた。何度かコール音が耳元で響いたあと、彼は電話にでた。
遠くに見える彼も、電話をしているように見えた。


「フランシス、今何してるの」
?ごめんね今日は用事ができてデートに行けそうにないんだ」
「私、わかってるよ。今綺麗な女の人といることぐらい」
「……そう、わかってるの。じゃあ話は早いね。そういうことだから、バイバイ


そこで電話は途切れてしまった。遠くに見える彼が一瞬こちらを見たような気がした。そんなわけないのに。
結局私もフランシスのたくさんの愛人と同じだったんだ。
彼の薄っぺらい愛の言葉にのせられて、自惚れて。馬鹿みたい。
遠くに見えていたフランシスの姿はもう見えなくなっていた。
頭の中は真っ白でただただ悲しみとむなしさが胸に広がるだけだった。
ぼうっとしながら、携帯でエリザに電話をした。彼女ならきっと受け止めてくれる。優しくしてくれる。


「もしもし、どうしたの
「エリザ、今から家、行ってもいい?」
「構わないけど……」
「ちょっと、話聞いて欲しいの」
「え、ええじゃあ待ってるから」
「うん。ごめんね、急に」


涙はまだ出てこなかった。頭がよくわかってない。自分もよくわかっていない。
こんなことになるなって、誰が想像しただろうか。
朝に戻りたい。昨日に戻りたい。だってそうしたら、私はまだ彼の恋人でいられた。
幸せなのが嬉しくて笑っていられた。本当は今だってそうだったはずなのに。
本当はなんて言っても、結局現実はそうはならなかったけれど。
終わりって、あっという間なんだねフランシス。